題 : 「いただきます」
小学校4年生と1年生の孫との会話です。

『きー君、りかちゃん、ご飯をいただく前に手を合わせて「いただきます」と
いってるかい』『言ってるよ、じいじ』

孫たちにこんな話をしたことがあります。
「じいじが若い頃、旧ソ連邦のアルメニヤ共和国(今、民族紛争をやってる
チェチェンの少し南に位置するコーカサス地方の国だよ)へ技術指導に
行ってたとき、現地の人に誘われてシャシリクパーティーに行ったんだ。

シャシリクと言うのは長さ約50cm程の鉄製の串に
小羊の肉とトマトと玉葱を交互に刺して焼いて食べる料理だよ。
肉の大きさは拳ほどあり、玉葱もトマトも丸ごとなんだ。
パーティーはこのシャシリクとアルメニヤコニャック、ウオッカと言う強い
お酒だけなんだ。車に小羊を積んで小川の流れる山裾へ行き、
パーティーはまず小羊を殺すところから始まるんだ。
人間に押さえつけられた小羊の首にナイフを入れるのはお客さんである
じいじで、最初に食べるのもじいじなんだよ。

じいじは小羊が可愛そうでナイフを入れることができないんだ。
でも、これを入れないとパーティーが始まらないんだ。
これがこの国の儀式なんだよ。
仕方なく、目を瞑ってむこうの人に手を添えてもらって
頚の動脈を切断したんだ。小羊は暴れることもなく声も出さずに死んでいったよ。

皮をはぎ、ばらばらにして串に刺して、シャシリクを焼き始めたんだ。
いい臭いがしてきて、さあ乾杯と言うところで最初に出されたのが
小羊の生のきんたまだったんだ。まだ温かみのある血管の浮いた
きんたまはどうしても口に入れることができないんだ。
でもこれを食べないと儀式が始まらないのでお願いしてそれを
焼いてもらいこれまた目を瞑って食べたんだよ。

どんな味がしたか覚えてないけど、拍手が沸き
やっとここでパーティーの始まりだ。
お酒もいただき、皆とおしゃべりしたりにぎやかになってくると
さっき死んでいった小羊のことはだんだん忘れていって
皆と一緒においしいシャシリクを沢山いただいたよ。

パーティーが終わり、一夜明けて酔いも覚めてくると
昨日死んでいった可愛そうな小羊のことが思い出され
目を瞑って殺したのに可愛そうな羊の姿がまぶたに映ってくるんだ
小羊のお母さんもさぞ寂しがったことだろうなあと悲しんだんだ。

この地球にはたくさんの人が住んでいて
皆の知らないところでたくさんの動物たちが死んで、人に食べられてるけど
人間のために死んでいったのだから、感謝していただかなくっちゃあね。」

『きー君、りかちゃん、だから残したり、捨てたりしてはいけないんだよ
捨てたりすると死んだ動物が可愛そうだろう。
「いただきます」と言って感謝して食べるんだよ』
『わかったよ、じいじ』

食物連鎖の頂点にいる人類は他の動植物の命の犠牲の上に
生かさせていただいていますが、スーパーで購入するときには魚以外は
元の姿を残しておりませんので、とかく単なる蛋白質の固体としてしか
見えませんが、元の命があり、常にその命に感謝しな
ければならないことを孫に教えたかったのです。

( 己斐上、T.N )