ひろしま漫歩
お地蔵さん  高須三丁目にて
        
高須の旧山陽道沿いに、
ビルの一角を削るようにして
地蔵堂が建っている。
お堂の前の古い道しるべには
「これよりぢぞう道」 とある。

この地蔵は、山の手にある福蔵寺への
道案内を務めてきた。
寺の本尊は安産に霊験あらたかで。
江戸時代には近郷からの参拝が絶えなかった。

古くから参道入り口に座り続けてきた地蔵は、
そのにこやかで温かみのある丸い顔と
前掛け姿で、行き交う旅人の心を
なごませてくれた。

地蔵信仰は、病気や悪霊から人を守るという
道祖神とも結び付いて、庶民の間に広まっていった。

昔は、道端や村境などで
必ずお目にかかることができた。
庶民の願いや哀歓が石に刻まれ、伝承され、
生活の中に溶け込んできた。

地蔵を婚礼に担ぎ込む風習もその一つだ。
お嫁さんが家にどっしりと腰を据えることを願ったものだ。
ここのお地蔵さんも方々の婚礼の席に運び込まれた。
「重いので四人で担いだもんですよ。
わたしらの結婚式にも何体も運び込まれました。
結婚して二十八年ですが、この時が最後になりました」と
近所の人は、感概深げに語る。

地蔵堂は、地元の人々によって新しく建て替えられ、
四季折々の草花が絶えない。
毎年八月下旬には、子供を集めての祭りも行われるという。

いまここに立って、お地蔵さんのやさしい目を見ていると、
遠いふるさとに出会ったようで、
懐かしさがこみ上げてくる。


(公文書館)
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